るりの創作部屋

創作のための格納庫

自己紹介・ブログについて

2023-07-02修正

初めまして、熊谷るり(@ruriruri9402)と申します。

 

 

1.作品紹介

 

 星月夜(1話2話3話4話)

長いこと構想練ってる長編に出てくるもう一人の主人公
焦点を当てた短編ストーリーです。

長編から公開したかったんですが、
短編の方が先に仕上がっていきました。

アフターストーリーの立ち位置にする予定なので、
現段階では熊谷一家という謎のキャラクターや分かりにくい展開も
含まれています。

 

 他短編

構想があるようなないような。
お見せできるいい作品があと何本か作れることが目標!笑

 

 長編(鋭意制作中)

公開できるようになったらいろいろ情報を出しますが、書きたいテーマが盛りだくさんです。
特にこの長編は私の人生を凝縮させたものなので、新しい挑戦もいろいろしている自信作です!笑

まだ長いことかかって設定を詰めてるだけですが、この長編をお見せできる日が来るように頑張ります笑

今年中に少しでも公開することが目標!

 

 

2.創作・文章化について


昔から創作を考えることは好きでしたが、
これまでの人生で最後まで完成させたものは正直1本ぐらいしかありません。
それも小・中学生の時に書いた小説で、当時好きだった少女漫画をオマージュしたものでした。
主人公の名前を「瑠璃ちゃん」にしていたので私の名前はそこからつけました。

今に至るまで、文章は習慣としてかなり書いています。
メモ程度のものも多いのですが、私の場合は、頭の整理をするのに文章化が欠かせませんでした。

現にこのブログを立ち上げるに至った下地となる文章は、
"主に1年弱自分のために書き溜めた私の内面の記録" です。

「オリジナル創作をまたやろうかな」と思うことは過去にも何度かありました。
ですが創作のネタを一週間程度練っては失速し、消滅する状態でした。

一番書きたい作品を23年2月頃に思いついて、時々休みながらも数カ月、
暇な時間を見つけては構想を練っています。
ちょうどjhopeの誕生日前後からやっていた記憶があります。

ここ数年の自分の集大成になる予定の作品なので、
公開するのにまだ時間はかかりそうですが、
ゆっくり育てていきたいです。

私の場合、本当に書きたい作品であれば多少詰まっても少しずつ進められるのかもしれません。

このブログでは以下の内容を発信していきます!

  • 長編
  • 短編数本(これから考えます)
  • 創作や日常のブログ

 

3.私の好きなもの


BTSのパワーや考え方、楽曲等が素晴らしすぎて最近はBTSばかりですが、推し歴は2年目です。

BTSの前に推していたのは安室奈美恵三浦大知
そして2人の楽曲制作によく関わっているnao'ymtという方でした。
安室奈美恵は昔から09年、10年あたりのアルバムが好きでした。

安室奈美恵の「Baby don't cry」とかBTSの「Lost」みたいな曲を
人生の壁に当たったときはよく聴いています。

 

友人の影響でセブチTXTなどハイブに推しが増えていっています。
どのグループの方も物事との向き合い方が素晴らしいですね。見習いたい。

 

アニメだと特に幾原邦彦五十嵐卓也榎戸洋司作品が好きです。
輪るピングドラム」の話ばかりした時期もありました。

だって、「家族」の話だもんね。

 

輪るピングドラム|10周年特設サイト

 

幾原作品のメッセージ性が好きで安室奈美恵を見出し、現在に至っている節まであります。


ジャンプ系も学生の頃好きでした。私の少年漫画の原点は鋼の錬金術師です。
あとはバナナフィッシュのような系統の作品も好きです。

好きな作品の系統は、紆余曲折あるけど救いのある話です。

 

4.家族について

昔から違和感を吐き出す環境は身近にもありましたが、それでも特に母親と妹がネックです。
おそらく2人とも自己愛性人格障害です。

子供の頃は直接的に影響を受けていましたが、
大人になってからも周りのことで自分でうまくできないことに苦しむことが増えました。

「ここだ!」と思ったセラピストさんのところへ飛び込んでいけるようになったのは
大人になってからでした。

カウンセリングコーチンを受け始め、
途中で中断しながらもトータルで5年経ちますが、未だに発見が絶えません。

特にここ1年半ほどで解毒はかなり進みました。
解毒作業というのは
親の影響を限りなく薄めていき自分の力を少しずつ発揮できるようにしていく
ものなのかなと理解しています。

今のところ、私の創作のテーマは母親との関係にまつわるものばかりですが、
作業を進めていくごとに解毒が進んでいたりするので、

もう少し作品ができていったらどんな心境になっているかわかりません。

 

5.ツイッター

ブログ更新や創作、日常に関することを呟いていきます。

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note

更新頻度が高いです。

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よろしくお願いします!

吉本ばなな『なんくるない』

 

吉本ばなななんくるない』 あらすじ

離婚の傷が癒えていない主人公。  

亡き母の夢を見たある日、

「海に行きたい」自分に気付く。

  

沖縄に滞在し、新しい出会いを経て、  

彼女は縛られない人生を切り開いていく。  

 

 

旅行描写のすばらしさ  

 

朝、目が覚めたらもう窓の外はかんかんで  

ぴかぴかの光にさらされていた。  

 

ああいいなあ、もう頭が真っ白だ、  

と私は思った。  

 

だいたい朝起きてすぐに、  

なにか考えることがあるなんて  

どうにかしている…   

 

少しずつ、都会の混みあった  

いろいろなことに用心して  

固くなっていた自分が無意識にしている、  

ふだんのおかしなくせがほどけていく。  

 

ふんだんな光の力、  

頭がばかになってしまう楽しい力だ。

 

 

南の海を舞台にしたばなな作品は、  

愛が温かく、ワクワクする。  

 

  

旅で洗練される内面、  

のびのびとした人間関係、  

生きる上で大切な信条。

  

 

特に人の豊かさは  

型通りの旅にはない魅力がある。  

 

  

 

物事は案外なんとかなる



ばななワールドを把握するには、 

『「違うこと」をしないこと』が 

欠かせない。 

 

 

andfour.hatenablog.com

 



人それぞれ、 

今は動く時期、 

今はじっとしてる時期 

というのがあると思う(略)。 

 

動いていい時期だとしたら、  

旅行したり仕事しても大丈夫だけど、 

じっとしてるべき時期にすごく動いちゃうと、 

やっぱり、少しずつズレていっちゃう。

 

 

何事もタイミングがあるのだろう。  

やりたいことをして、見えてきた流れに乗り、  

自然な自分を見つければいい。  

 

 

緊張を楽しんで、 

焦らずに時機を待つしかない。  

 

なんとかなる。 

物事は、それで大丈夫になっていく。 



なんくるない』で

人に合わせていた事に気付いた主人公が、

決まりから自由になっていく。

これぞばなな作品の真髄だ。

 

  

このメンタルが人生には大切  



もずくが熱く溶けていて、  

ゴーヤーの苦味が油っこさを  

消していて、  

ほんとうにおいしかったのだ。  

 

「冷めたらまずいから店には  

不向きなんだけど、  

おいしいでしょう?」  

トラは嬉しそうに笑った。  

 

「楽しいね、  

こうやっておいしいと思うのって。」  

私が言うと、トラはうなずいた。  

 

  

「つまんないことが  

たくさんたくさんあって、  

力がなくなるようなこととか、  

生きててもしかたないと  

思うようなことがたくさんある、  

 

TVを観ても、なにをしてても  

いつでもたくさん  

目や耳に入ってくる。  

 

だから面白いことをたくさんして、  

逃げ続けるんだ。  

逃げ続けるしかできない戦いなんだよ。  

 

僕のちっぽけな人生を  

誰にも渡さないんだ」  

 

 

 

ここが本当に最高。 

 

作中のもずくパスタを再現した人もいた。  

ameblo.jp

 

 

ユーモア溢れる感じで、人生を楽しみたい。  

これでいいよってことなんだ。  

 

ps.感銘を受けて、先日、ドライブ先でもずく150gを購入した。

他人にとって意味はなくても、自分の幸せが大事。

吉本ばなな『「違うこと」をしないこと』

吉本ばなな『「違うこと」をしないこと』

 

この本は、生き方に困っている人たちの大事な教科書。

家族や友人より信頼できる味方。

困ったときに、何度でも読み返そうと思う。

 

吉本ばなな初心者にも、最初に読んでほしい一冊だ。

彼女の信念、人柄や作品への解像度が上がるからだ。

 

 

 

「引き寄せ」挑戦で、お守りが欲しい時に

 

本来の自分を生きるには、

「違うこと」をしない。

自分の自然の流れに沿っていく。

流れに対して、サーフィンのように乗る。

 

そうやって選択していくことで、

武士道を極めるように、

欲しいものが手に入るようになる。

ラクなことばかりではないが、自ずと道は開いていく。



欲しいものを手に入れるための

「引き寄せ」の法則。

 

実践中に、

これまでの常識と反する

根深い課題に直面することがある。

 

突然会社をクビになったり。

病気やケガが原因で、

それまでのあり方を

振り返らないといけない時もある。

 

それでも力んではいけない。

流れが滞ってしまうからだ。

 

萎縮から脱出するキーワードは、

吉本ばなな作品で一貫する、「愛」だ。

 

(奥の方にある)層を開くには

愛と一緒じゃないと、

体は受け入れようとしないんです。

 

取り上げるときには

奇跡といってもいいくらい、

愛が生まれるのを感じます。

 

 

吉本ばなな作品では、

彼女の思想を文章化したような

愛に触れることができる。

 

愛や宇宙の前では

取り繕いが通用しない。

 

 

吉本ばなな作品の「愛」

 

みんな、愛というものを

勘違いしてるんじゃないかって。

 

特定の人物の特定のかたちの

愛情が注がれないと

自分は癒されないみたいな思い込みを

多くの人が持っているみたいだけど、

 

そうするとセンサーが

鈍くなっちゃって、

本当の愛に触れた時に

気付けなかったりする

 

愛って、感情や気持ちが先に来るものではなく、

柔軟なエネルギー。

 

親、先生、友達とか、

周りにいる人の善意や気遣いが

人間を蝕むこともある。

 

「良かれと思って」「あなたのため」という言葉に

縛られずに、自分で選択していけばいい。

 

愛と善意って似て非なるものですよね。

 

愛って、とても潔い感じがするけど、

 

気をつかわれたりして

優しくされるというのは、

感覚としてちょっと気持ち悪いものも

含まれている感じがするんです。

 

その気持ち悪いものを

受け入れ続けていると、

絶対に溜まっていく(中略)。

 

その、なあなあの状態そのものが

愛を蝕んでいくものだと思うので。

 

 

「自分のような人を癒したい」

吉本ばななの信念の核が

この一冊に刻まれている。

 

彼女の本は、どんな困難でも曇らない愛に包まれている。

 

『「違うこと」をしないこと』は、

自分の道を切り開く人に、たくさんのエールをくれる。

どの箇所に目を通してもホッとする。

 

何度も読み返して、

暖かい光を辿っていけば、大丈夫だ。

 

 

食べてグーと寝るQちゃんでいい

 

吉本ばななは、

10代の頃、ひたすら眠っていたという。

嫌なことがあると寝てしまう。




周りを調整しつつ

ちゃんとバランスをとりながら

自分を生きることの難しさや

そこから自己の中で生じる矛盾というのは、

今でもすごく感じています。

 

たぶんそのせいで、

私の初期設定には「オバケのQ太郎」の

Qちゃんが入っているんだと思う。

 

Qちゃんって、周りがいかに揉めていようと、

おやつを食べて寝るだけっていうか、

いっぱい食べて、グーとか寝ちゃったら

 

「もうしょうがないね」って

周りもなるじゃないですか。

子供の頃の私も、

それでしのいできたんじゃないかって。

 

人ってこりゃもう今すぐ寝るしかない

みたいな時もありますからね。

寝れば治るみたいなね。

 

 

「むしゃむしゃ食べて、グーグー寝る」。

この生き方は子供の頃の

「理想の生き方」を実現していたと気付く。

「自分を責めるほうが間違っていた」

 

元々の自分を取り戻すことを、

ゆるく確実に肯定してくれるエピソードだ。



楽に、流れるように、闇に負けない深い愛を。

「常識」があまりにも強力で

まだ迷う時はあるが、確実な光を見つけた。



一部しか紹介できなかったが、

人生の辞書や導きのような

『「違うこと」をしないこと』を、

ぜひ読んでみてほしい。

小さい頃の夢

幼稚園時代の将来の夢はパン屋さんだった。
将来の夢のイラストをマジックペンで透明なフィルムに描き、プロジェクターでお遊戯室の壁に投影して、
「私は大きくなったら、パン屋さんになりたいです」
と大勢の前で発表していた。
メロンパンや食パンをイラストに描いていた記憶がある。

 

当時よく行く近所のパン屋が大好きだった。
買うパンはいつも決まってアップルレーズンパイだったけど、
一つ一つ丹精込めて作られたパンがおしゃれにズラッと並ぶあの空間がたまらなく好きだった。

 

その「将来の夢」を可愛らしく一生懸命描いた幼稚園時代の私に母親はケチをつけた。
「パン屋なんて大変な仕事だよ。重いものを運ぶし体力もいる。起きるのが朝4時とかだよ。朝早くに起きられないんだから無理でしょ」
私がパン屋を目指すのがなぜ無理なのかをクドクドと指摘してきた。

 

母を疑うことを知らないピュアで真っ直ぐな私は
「そうか、無理なのか。そんなこと書いちゃいけなかったのか」
とショックを受ける。

 

パン屋さんになりたいという夢を幼稚園時代に完全否定されてしまった当時の気持ちを、
大人になるまで封印していた。

数年前、私はパン屋の雰囲気からとんでもなく癒しをもらっていることに気付いた。
幼い頃の憧れがパン屋、というのは理にかなっていたのだ。

 

そのパン屋は潰れてしまったが、幼い頃に見た光景はすごく印象に残っている。
レジの近くから厨房を覗いてみると、
焼きたてのパンが大量にベーカリーラックに載せられて、
冷めるのを待っている。
店の中は焼きたてのパンのいい匂いが充満している。
店の中を歩くといつも食べるパン以外にもおしゃれな形のパンがたくさんある。
色々な種類のパンが綺麗に陳列されているのも、手作りで一つ一つ少し形に個性があるところも、
トレーを取ってパンを選ぶ楽しみも、そのパンが店員さんに鮮やかに袋詰めされていく様子も、
その買ったパンを持ち帰る時の和やかな気持ちも
パン屋の建物のレトロでおしゃれな雰囲気も私の宝物だったのだ。

 

母親は小さい頃にパン屋に連れていってもらったことはなかったのだと思う。
彼女は何より、周りを見返すためや自分が楽をするために、
どの子も医者にしたくて仕方なかった。
子供に稼がせてサボるつもりだったのだろう。
自分がうまく社会に溶け込めずに挫折した夢の続きを子供を使ってどんなことがあろうとも叶えようとした。
物心がついた頃から「医者になれ、有名国公立大学に入れ」という話ばかりされ、
母親に反発していた時期もあったが、結局は人生に疲れてしまった。
自分の夢やなりたいものは大人になった今でもよくわからない。

 

思春期ごろなりたかったものは作家、カウンセラー、家庭裁判所関係の仕事。
とにかく毒親から自分も救われたかったし、同じように困っている他の誰かを助けるしかないと思っていた。

 

どれにもなれていないけど、
私は小さなパン屋やお菓子屋に入って悩みに悩んで商品を買うことがすごく好きだし、
自分に関するアウトプットは常にしていないと気が済まない。
とうとう創作で弁護士だって登場させようとしている。
私がかつてなりたかったものや興味のあることって自分で意外と納得できるなと思う。
全てが急に巡り巡ってきたことが不思議だ。

 

先日、パン作り体験をしに行った。
結論から言うと、パン作りに縁がないあまり器用ではない人間がいきなり行っても家で再現はできないが、
全ての工程がわからなかったわけではなかった。

 

私は最初に材料を混ぜて生地を休ませた後、
台に何度か生地を叩きつける工程がけっこう好きだった。
これは、膨らませるときに余分なガスを抜く工程だ。
一次発酵に関わる工程のはず。

 

うまくたたきつけないとガスは抜けないし、
触りすぎると生地がベタベタになってしまう。
少しコツが掴めてきたかなというところで工程が終了した。

 

不器用なりに昔よりは頑張れるようになったなという印象だ。

 

パン作り体験の予約をしている時に昔のことをまた思い出した。
あの思い出のパン屋は、
幼稚園の帰りに母親に連れられて行ったことが何度かあった。
幼稚園帰りは公園にも行っていたはずだから、パン屋に寄ったのは公園に行った帰りかもしれない。

 

母親に幼稚園児の「将来の夢」を喜んでもらえなかったことで、
本当にその頃何を楽しみにしていたかの記憶を封印していたので、
記憶が蘇るのは嬉しかった。

 

小さなあなたが好きなもの、今の私も大好きだよ。

 

星月夜 5話

4話の続き

andfour.hatenablog.com

 

 

「香凜、あなたはあんな子に近づいてはダメよ」
「どうして?」
小学校から帰ってきた香凛は母親と話をしようと、いつもリビングに駆け込んでくる。学校で起こったことを聞いてほしい香凜は楽しそうになんでも報告する。
母親はそんな香凛の話が聞くに堪えないほど退屈だという態度を隠さない。

「ママ、どうしたの?」と香凛に気にかけてほしいのだろう。一生懸命話す香凛に中途半端な相槌ばかり返してくる。
子供である香凛よりもさらに子供じみた母親だった。

面白くないという表情をしながら、母親はなぜか香凜の同級生にケチをつけてくる。
団地の子だから。貧乏なのよ」

 

またある時は香凜がアイスをたびたびねだる様子を見て、「私なんて」と突然癇癪を起した。
「私が小さい頃はこんなアイスすら買ってもらえなかった」
「あんたは贅沢すぎるのよ!」
香凜の母親は実家が貧乏で辛かったとしばしば香凜に泣きついていた。
両手で顔を覆って大げさに泣きわめく母親を、香凛自身も戸惑いながらなだめ続けた。唐突に親をなだめることになってしまった香凛も泣いていた。香凛が優しく精一杯母親の頭を撫でながら言う。
「ママ、ごめんなさい。ママを悲しませて本当にごめんなさい。ママ、大丈夫だから」

 

かつて、母親は感情が昂ると説教の途中で子供を殴ったり叩いたりすることがあった。
「あんたも辛いだろうけどね、あんたを叩く私の手の方が痛いのよ」
そう言って悲痛な表情をしながらも母親が攻撃をやめることはなかった。

 


香凛は今でも時々実家にいた頃のことを思い出す。

トラウマにまつわるカウンセリング治療を定期的に受けるようになってから、母親への思いはいつまでもこびりつく憎しみや悲しみだけではなくなった。

孤独でかわいそうな部分は母親と共通していることに香凛は気付いていた。


母親は貧乏な家庭出身で、おまけにその親は重い精神疾患を抱えていた。
母親の幼少期の思い出は、香凛よりもずっと強い憎悪にまみれているのだろう。
それを差し引いても、「あんな貧乏な子に近づくな」などという言葉は、幼い頃の自分を傷つけていることにはならないのだろうか。
幼い頃の姿は母親の中で切り捨てられてしまったのだろうか。
だとすると、幼い頃の母親はどこに行ってしまったのだろうか。

 

簡単に消えるわけがない。
香凛は自分の7歳の自我のことを思い出す。
いくら封じ込めても、無意識の中に彼女たちは存在していた。
闘いの痕跡が伺える、陰陽に分離した双子のような姿で。

 

母親が閉じ込めた幼い自我は、何重にも閉じられた門の先にいるのだろうか。
それとも地中の奥深くの洞窟に眠っているのだろうか。
香凛の想像を絶するほどのストレスにさらされた母親の場合、幼い頃の自我はさらに強く分離しているだろう。

母親が蓋をした自我ほど、治療中に自分と向かい合う時に簡単には出てこないだろう。
だが、厳重に檻に入れられた幼い自我は事あるごとに、パニックを起こしながら飛び出してくる。
「助けて!助けて!」

パニックの最中、自分が何をしているのか母親は客観的に認識できていないのかもしれない。

 

だが、おそらく母親は仮に香凛と同じカウンセリングを受けたとしても、治療の一部分も理解できないだろう。

自分を客観的に見つめ直すことが全くできないからだ。

周りの環境が良くなかったとしっかり認識し、「変わりたい」という思いがないと治療の意味がない。
幼い記憶に、認めたくないほどの負の感情が強すぎたのかもしれない。
彼女はずっと自分の内面の迷宮から抜け出せない。
這い上がろうと努力した香凛からすると、それはとてもかわいそうなことに思える。
不安や空虚は、どれだけ縋っても他人が埋めてくれるものではない。
無償の愛をくれる身近な存在は一般的に母親だが、母親にその期待ができない場合、自分で答えを探すしかない。
代わりの他人が思い描いた通りに尽くしてくれないことを憎んでも、状況はひどくなるばかりだ。
治らない母親の精神的な病に呆れて、娘である香凛でさえ距離を取った。

 

自分の中にいつの間にか植え付けられた深い嫉妬や不安、悲しみ、等身大の自分を認めないといつまでも同じものに縛られる。

 

「あんたを叩く私の手の方が痛いのよ」
確かに母親は、鬼のように怒り狂う自我が檻からたびたび飛び出してきて、コントロールができずに苦しかったのかもしれない。
母親の中で、想像を絶するほど激しく深く怒り、悲しみの感情を持っている存在はどんな形をしているのだろう。

 

 

 

 

星月夜 4話

3話の続き

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「うーん、やっぱり軽い解離があるかもしれませんね」

坂内美佳の3度目のカウンセリングでのことだった。

「自我の分離がより重度だと解離性人格障害になります。普通の人はバラバラの自我を持ちません。焦ってしまうと記憶が飛びやすいのはトラウマによる軽い解離が起きているのかもしれません」

「自我療法、受けてみますか?」

 

「うまくいかなくてイライラする時や頭が痛い時に現れてくる自我が誰なのか、聞いてみましょう」

 

目を閉じて、イメージに現れた階段を降り、さらに進んで家の中を探索していく。明るいリビングが目の前に広がる。知らない家なのにどこか懐かしい光景だ。誰もいない広いリビングの隅には積木やレールのおもちゃが散らばっていた。キッチンは綺麗に整えられているが、誰かの生活の痕跡があちこちに染み付いており、その息遣いまで聞こえてきそうだ。

「部屋に誰かいませんか?」

「何も現れてきませんが、家の中に誰かがたくさんいる気配はします」

それが解離の証拠ですよ、と美佳が言う。

 

2階に向かうと子供の勉強部屋があった。

実家にいた頃、駄々を捏ねながら床に転がっていても、執拗に親が追ってきて勉強を強要されていた。いつも先に感情を逆撫でするのは母親の方で、子供が泣いても怒ってもその手を緩められることはなかった。金と名声と勉強にしか興味のない高慢な母親だったが、実際の彼女の自信はその態度とは裏腹に、砂上の城のようなものだった。母親の脆い自信と根底の不安は想像の範疇を超えており、家族を攻撃することで偽りの脆い自信をわずかに延命させていた。そのため、家族に対する理不尽な言動は明らかに病的なものだった。母親は自分で気付いていないが、他人を罵倒することが目的にすり替わっている。母親は満足するところがなく、怒りの引き金は彼女の気分によってコロコロ変わる。

 

母親にヒステリックな罵声を浴びせられ続けた記憶がまだ鮮明にそこにある。罵声のバリエーションは数えきれない。人格否定も日常的なことだった。苦行は声が枯れるまで何時間も続き、時間帯を問わず突撃されることだってある。

「なんでこんな簡単な問題が何度やっても解けないんだ!お前はいつもできないやつだな、違う、こうだろうが!!」

「うるさい!あっちへ行け!いつまでも横に立つな!気持ち悪いんだよ!」

当時、香凜には自分の頭や感情が壊れるような恐怖が常にそこにあった。母親に壊される恐怖と常にギリギリで闘っていた。

 

この空想に現れた子供部屋に意識を集中させようとすると頭痛がひどくなる。集中が続かず、何度もイメージが途切れる。

 

1階に戻ると7歳頃の幼い自分がいた。縁側に座り日を浴びて穏やかに過ごしている。

「あ、じゃあ他の場所にも行ってみて。誰かいませんか?」

いつも冷静に話す美佳の声が少し焦っている。美佳はもうこの先を確信しているようだ。

 

その家の玄関に行くともう1人、7歳の自分が先ほどと瓜二つの姿でそこにいる。この子は母に何かを怒られた直後のようだ。理不尽な扱いに対して自分の怒りを抑えられずパニックに陥り、床にひっくり返って泣いて暴れている。

この2人はかつては1つの姿だった。トラウマによって、悲しい記憶を持つ感情が分離したのだ。

そして今でもイライラした時に起こる頭痛は、明らかに泣いて暴れる7歳の自分が持つ頭痛と同種であることを香凜は悟る。

感情や記憶が時に曖昧で思い出せないのも、自分でコントロールできない感情が時に顔を出すのも、深いトラウマが癒えていないために起こることだった。

 

単に置かれた状況だけで人の心の傷の大小は他人と比較できない。それぞれがただ自分の傷を理解し、対処を見つけ、少しずつ自分を大切に育てられるようになればそれでいい。

 

他にも何人かの自我を見つけたが、幼児同然の弱い自我や、中年オヤジのように自分を厳しく律するタイプの自我が目立った。

彼らも元々1つだったものが分離したのだろう。一見離れて見える両極の性質の彼らも、情報を整理していくと案外ただの裏返しで、元々は1つの存在でバランスを保てるものとしか思えなかった。彼らも生き抜くために感情を分離させる方策をとったのだろう。

幼いままの自我は怒りを持たないようで、その年齢で時間が止まってしまっている。自分を律する厳しい自我はどんどん膨れ上がっていったが、厳しすぎるあまり自分が苦しくなっている。

 

香凜はそれまで、自分の感情や記憶が時々曖昧であることも知らなかった。親の虐待は子供の脳機能を徹底的に破壊する。

頭が痛くなるほどのつらい記憶はなかなか消せず、似たような場面でフラッシュバックを起こしていた。

 

香凜には特にコントロールしづらい厳格な自我が2人いる。

1人は中年オヤジ。初めて見かけた時はトンカツ屋の肥えた豚のイラストのような姿をしていた。築40年はとうに超えている木造アパートの2階で、桶に水を張っていろんなものを手洗いしていた。見ていて殺伐とした気持ちになる空間だった。

「金がない、金がない」

豚さんからはそんな声が聞こえてきた。

見ているこちらの胸がキュッと締められそうなほど余裕なく暮らしていた。

 

もう1人は嫉妬や不安を増幅させやすいクロちゃん。たいてい彼女は姿まで捉えられず、影しか見えなかった。

「あいつらがやったこと、絶対今でも許せない!」

彼女が未だに奥に抱えたあまりの憎しみに、他の自我達が恐怖で固まってしまったほどだった。

 

「どの自我も自分を守るために生まれています」と美佳は言うが、香凛はクロちゃんの存在意義がしばらくわからなかった。

フラッシュバックの元である嫉妬や昔の失敗に付随する記憶なんかない方がいい。

それに母親の嫌な部分をクロちゃんはかなり受け継いでしまっている。

クロちゃんとの向き合い方を習得するまでに何か月も時間を費やした。

 

「いい子のフリなんかやめろよ!あいつらのこと、今でも恨んでるんだ」

クロちゃんの怒りを抑え込んで笑顔でやり過ごしていたら後から調子を崩すことが何度もあった。クロちゃんの警告は時に香凛の我慢の限度を知る指標となる。

「少しの違和感でも信じた方がいいですよ。特にクロちゃんが警告している時は、クロちゃんと話し合ってみてください」

 

クロちゃんには感情が分離する前は対称の存在であった明るい女子高生がいる。女子高生とクロちゃん、中年オヤジの豚さん達と話し合って物事に対処する。力関係のバランスの大小もあり、うまくいかない時もあるが、失敗から学んでいくことも多かった。中年オヤジは当初より幾ばくか可愛くなった姿で登場するようになった。

 

香凛の内面世界は、どんどん変わっていった。

 

 

 

星月夜 3話

2話の続き

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昼12時。多くのリハビリ療法士たちが患者さんへのリハビリを終え、休憩に入る。12時になってすぐに午前のカルテを書く人もいるので、人の動きはバラついている。

香凜はリハビリ室を一直線に横切り、その一角にある控え室に入る。控え室にはロッカー数台と細長いデスク、書類の棚がある。デスクには4種24個入りの菓子折りが置かれていた。患者さんからの贈り物だろう。鮮やかで美味しそうなパッケージが目を引く。デスクの周りには4人の療法士がゆったりと座り、お菓子を囲んで団欒をしている。

「えー、何だろう?」
ミルフィーユだって。今取ったのはピスタチオだね」

贈り物のお菓子はなんといっても食感や味が楽しみだ。最初の一枚の感想を聞いて、続く人が少し考える。お菓子の前でしばし選ぶ指が彷徨う人もいれば、すぐに決められる人もいる。香凜はオーソドックスなチョコを選んだ。最初の一口を食べると、薄いパイ生地が何層にも重なっていて、食感は軽く、薄くかけられたチョコとの調和がとても良い。口の中で噛んでいる間も本当に幸せだ。

 

10年目のベテラン療法士である杉山直人が香凜に声をかけてくる。

「松田さん、一緒に担当してた熊谷正雄さん覚えてる?熊谷さんの弁護士さんからもらったよ。もう一年経ったのかー。正雄さんは元気だって。歩きも良くなってるみたいだよ」

熊谷正雄は香凜が昨年担当していた患者だ。香凜は作業療法士、杉山は理学療法士として熊谷正雄のリハビリを担当していた。

杉山のように10年もの経歴を持つ療法士は他にも何名かいるが、杉山はかなりの情報通であるため、まるで裏番長のような存在感があった。

 

熊谷正雄が退院した施設スタッフに、杉山の知り合いがいるらしい。杉山は正雄の写真も何枚か見せてくれた。

退院時より心なしか顔が多少ふくよかになっている気がする。急激に体重が増えている様子ではないので、体重管理には問題なさそうだ。肌の血色は明らかに良くなった。施設の生活にも慣れたのだろう、少しずんぐりした体格に似合わずニコニコと朗らかな笑みを浮かべている。

 

「熊谷さんの息子さん、市民病院に入院してるんだって」
「えっ」

せっかく親御さんの件はひと段落ついたのにね。杉山の声はもう香凜に届いていなかった。香凜の体は固まってしまった。ここと違って市民病院は大きな病院だ。それなりの治療が必要なのかもしれない。心がずんと重くなり、視界は分厚いフィルターを通したような感覚だ。不安でとにかく胸がざわついた。

香凜は元担当患者である熊谷正雄の息子、熊谷雄大と少しだけ縁があった。2人は毒親持ちという点で共通していた。香凜からすると、雄大毒親育ちの先輩のような存在だ。

香凜は仕事上、直接患者や関係者に電話をかけることは許されていない。だが、入院の噂を聞いた以上、少しだけでも相手の詳しい状態を知りたくなった。怪我なのか病気なのか、状態の重さや改善の見込みはどうなのか。

 

香凜が連絡を取れる人で雄大のことを知っているのは、鹿野クリニックの心理カウンセラーである坂内美佳しかいない。ちょうど週末に美佳のカウンセリングの予約をしていた。

正雄が入院していた頃、ふと雄大に尋ねたことがあった。親のことをどのように克服していったらいいのかと。

「熊谷さんの両親との向き合い方自体、見ていて参考になります。私はそこまでまだ割り切れていないので…」

香凜は実際にはそれだけしか言っていないのだが、同じ毒親育ちとして言いたいことはだいたい察したのであろう。

そこで雄大から教えてもらったのが美佳のブログサイトだった。

トラウマの治療は評判の良いちゃんとした心理士を選んだ方がいい。僕が知ってる中で、トラウマ治療はこの人が一番だ。まあでも、人のおすすめであっても一度自分の目で確かめてみることも大事だよ」

 

美佳が所属する鹿野クリニック自体は東京にあるが、最近は電話でのカウンセリングも行っているらしい。認知行動療法はなんとなく心理学の本でも読んでいたのでイメージがついていたが、それ以外にも知らない治療法をたくさん行っていることがわかった。

読み進めていくうちに、香凜は美佳のカウンセリングを受ける必要性をひしひしと感じていった。認知の歪みも根深いが、トラウマとして残っている傷もまだまだ適切な治療が必要な段階なのだろう。美佳のカウンセリングを受け始めて8ヶ月が経ったが、内面世界の発見は未だに尽きなかった。

美佳とのカウンセリングはいつも興味深く、引き込まれる。時々、治療をしてくれる美佳にはどんな内面世界があるのか気になった。

 

雄大が入院したという噂を聞いてから数日後、美佳のカウンセリングを受ける機会に雄大の状態を尋ねてみた。美佳も知らなかったようだが、美佳から雄大に連絡を取ってくれることになった。

雄大が入院したという噂を聞いてから数日後、美佳のカウンセリングを受ける機会に雄大の状態を尋ねてみたが、美佳も入院の件について全く知らなかったようだった。

香凛と雄大の了承のもと、その数日後に香凛のスマホ雄大から直接電話がかかってきた。

 

「松田先生、お久しぶり!いろいろバタバタしていたから、そちらの先生方には退院してからきちんと報告しようと思ってたけど、話が回るのが早かったんだね?」

うちの弁護士先生には、病院の先生方に心配させないよう言っておいたんだけどなー?

雄大の喋り方は以前と同じ調子で、どことなく抜けている。

「ガンが発覚して、手術のために入院することになったんだ。手術が終わってからもしばらくは大人しく過ごすつもり。僕自身は元気だよ。まあ、ガンってよっぽど進行しないと自覚症状がないもんね」

手術が必要な段階のガンなのに、淡々と状態を話せるメンタルの強さに香凛は驚いた。相手を心配させないためにこうして自分の口から伝えてくれたのだろう。

「この機会に、やりたかったこともやってるよ。何十年ぶりに世に出す作品でも作っちゃおうかな、とかね」

 

香凛は後遺症で体が元に戻らない人をたくさん見てきた。大きな病気になったらオシマイだから、迷ったらなるべく後悔しないように物事に取り組んだ方がいいという考えを持っていた。

病気になっても、大きく生き方を変えなければいけないわけではない。何かを残したり、大切な活動を続けていける。今後も長い人生をすでに諦めてしまっていたのは香凛の方だった。

 

続き

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